”編集長代理”の徒然ESSAY No.2「トム・エバハートとクロード・モネ」【後編】
こんにちは、編集長代理です。前回の【前編】に続き、今回は【後半】をお届けします。まだ【前編】をお読みになっていない方はこちらから▼
印象派の技法が意識されたトムの作品として、2023年の秋にリリースされた版画作品「Late Afternoon Dog House」についても言及していきたい。この作品は1993年に大型原画作品として描かれた。初期のテーマである「不在の中の存在」に属している。キャラクターは描かれていないが、そこにまるで存在しているかのような風景や、「PEANUTS」のコミックで描かれる背景や衣装などの、普段は注目することのないアイテムに着目した。キャラクターが描かれていなくても、そこには確かに存在している。これは作品を立体的に捉えたジオラマ画の視点にも通じているだろう。対象物の重なりは描かれることはないが、確かにそこに存在している。
シュルツ氏が描くものの中でトム・エバハートが好きなものは、「犬小屋」と「雨」なのだと話していた。本作は、今回のモネ展では見ることができなかった「ルーアン大聖堂」を表している。大聖堂がカトリック教会、つまり一神教の信仰の場であるとともに、それを表した本作もまたトムにとってはシュルツ氏への深い尊敬の念が込められた作品なのだ。
「不在の中の存在」以降、トムは自らの新しい表現を模索していく中で油絵からアクリル絵の具へと画材を変え、画風も変化していった。
そして「不在の中の存在」というテーマは後の2021年に「Hide and Seek」という連作にて新たに表現される。「かくれんぼ」と名付けられたこのシリーズは、トムにとっての新しい聖地であるタヒチの風景画である。ヤシの木の連作、そこにキャラクターは描かれていないが確かに存在し、隠れているのだという。一見して全く別の作品であり、関連がないようにも見える2つのシリーズは、30年の時を経て改めて違った視点から表現された同じテーマの作品だといえる。
トムは、作品をよりたくさんの人が受け取れるように、そのテーマを一見して分からないようにカモフラージュしているという。彼の作品を紐解く鍵は、歴史を彩った画家の人生を辿ることで見つけることができるだろう。
執筆者プロフィール
