”編集長代理”の徒然ESSAY No.4「里山の春を味わい尽くす」

更新日 2025年05月13日
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こんにちは、編集長代理です。いよいよ晩春というか、5月も半ばになると暑い日も多くなってきますね。私が里帰りをしている南東北では、不安定なお天気も相まってか、まだまだ肌寒い日が続いています。

数年ぶりに東北で春を過ごしていますので、今回は「天ぷらのススメ」ということで、山菜についてのエッセイをお届けします。

 

 

長い冬を過ごすと、春の訪れが強烈に待ち遠しくなる。

日本全国を飛び回る日々から一転して、南東北での里帰り生活も数ヶ月が経過した。「温暖化」という言葉を聞いて久しいが、今季は特に雪も多く、凍えるような毎日だった。生まれ育った故郷の、冬の厳しさを痛感する。青空の冴える晴天の日は少なく、白く烟るような曇天ばかりが続き、日照時間の少なさに気が滅入りそうになった。

それでも、春は必ず訪れる。十数年ぶりに味わう感覚だ。これは冬を耐え抜くことで初めて感じられるもの。

植物が芽吹く様子というより、それは風の匂いで知る。冬は鼻の奥がツンとするような水の匂いが一面に広がっているのだが、それがある日突然、ぶわっと土が温められた匂いに変わる。巷では春一番と呼ばれるような、強烈な風が根こそぎ冬を攫い、風がおさまると木々が芽吹き出す。

フキノトウが出始めると、いよいよ「天ぷらの季節」の始まりだ。

山菜に詳しくなくとも、フキノトウは誰もが知る春の味だろう。今やスーパーにも並んでいる。よく「ホロ苦い」と表現されることが多い味だが、それは収穫のタイミングによって異なる。通はあえてこの苦味を楽しむのだろうが、私は「苦くない」ものから味わいたい。フキノトウは開く前に収穫すると、ほんのり甘く優しい味わいで香りは控えめだ。上の写真のような開き具合だとホロ苦く、フキの香りは上等。あえてどちらの開き具合のものも採りたいところ。

 

 

天ぷらは難しくない。あえて挙げるならば、ポイントは3つ。水は冷たくする、粉はしっかり混ぜない、油はきちんと温める。これさえ守っていれば良い。しかもこの頃売られている天ぷら粉は、水がぬるくても、分量が適当でも美味しく出来上がるものがあるから頼もしい。私は薄衣が好きだ。

 

初物を手にしたら、まずは食材そのものの味を感じたいと思うのは皆同じだろうか。特別長生きをしたいとも思わないが、初物を食べると寿命が延びるという言い伝えが思い出されるのはいつも春。食事というのは、人間にとって生命活動を維持する一番重要なもの。だからこそ、食事に関する様々な価値観や考え方があるのだと思う。私は「命があるものだから食べる」という考えを持つようになった。食事が自分の体を作り、食べたものは全て自分の血となり肉となる。「食べる」という行為は、すなわち「共に生きる」ということ。多様な生物が私と共に生きている。

 

今年は、今までに食べたことのある山菜だけではなく、野草と呼ばれているものにも手を伸ばすことにした。こちらにいなければできなかったことだ。存分に楽しみたい。

 

フキノトウが終わりに近づき、山菜の王者たちがこぞって顔を出す頃、負けじと背を伸ばすものがある。「ツクシ」だ。

 

 

ツクシは水分が多いせいか、天ぷらにしてみてもあまり食べ応えがない。カリカリでなんとも爽やかな旨みがあるのだが、これは下茹でをして玉子とじが正解だった。主役級のおかずになるので、来年もまた食卓に出そうと思う。

 

次に、いただきものの「コシアブラ」。人によってはタラの芽よりも美味しいと言われることもある。私が育った山には生えておらず、大人になってから知った山菜の一つだ。苦味が少なく食べやすいので、山菜ビギナーにもお勧めできる。

 

 

里山に暮らしていると、こうして山菜のお裾分けや交換が盛んに行われるので嬉しい。

 

 

写真では分かりにくいが、コシアブラの陰に盛り付けられているのは「クズの蔓先」を天ぷらにしたもの。クズといえば、たちまち森を飲み込むほどに増える蔓植物で、葛餅の原料でもある。これも初めて食べた食材だったが、天ぷらは絶品だった。他の山菜と比較しても郡を抜く甘み、野菜にも劣らない美味しさ。筋や棘がないので食感も良い。さらに、山菜採りビギナーにとっては、他の植物と間違えにくいというのもポイントが高いところ。

 

そして圧倒的王者、タラの芽。

 

 

ふっくらとした芽はいくつもの鋭い棘をもち、採取する際に指先に突き刺さって、これがまた痛い。タラの木は比較的棘が少ないものと、棘の多いものがある。上の写真の左が棘が多い「オニタラ」。右は棘が比較的少ない種類のもの。こちらでは「タランボ」と呼ばれている。

タラの芽が食べられたら、食の春もいよいよ佳境を迎える。

 

 

天ぷらは何で食べるのが良いか。私は温かいめんつゆが気に入っている。サクサクの天ぷらがしんなりする前に口に入れるのが好きだ。今年はさらに、お客様からスイスのお土産でいただいたアルプスの塩もある。台所で揚げたてをつまむのは、料理をしている人間の特権。「どれ、揚げ具合はいかがかな」などと独り言を呟きながら、片手でビールを開けるのは最高の時間だ。

 

最後に、春を締めくくる「タケノコ」。

 

 

私が生まれて初めてタケノコを掘りに行ったのは小学生か中学生の頃だったと思う。祖父とともに歩いた山は狐の臭いがしていて、土地の目印などを教わった。祖父がそうしていたのでずっと鍬で掘っていたが、今年はスコップを使った。こちらの方がいくらか掘りやすい。

この辺りの竹は香りが強く、東北の濃い味付けの煮物にしても醤油に香り負けしない。皮を剥いたり、下茹でをする手間でさえも愛おしくなる。

山の恩恵は計り知れない。

そろそろフキやウドが旬を迎える。春の味わいは、まだまだ楽しめそうだ。

 

※日本の山林は自治体が管理している土地を除いて、私有地です。勝手に山に入って山菜を採ったり、タケノコを掘ると窃盗になってしまうので要注意。

執筆者プロフィール

H・T
H・T
「編集長代理」東北出身の酒呑童子。元和食の板前、実は甘いものが苦手。温泉をこよなく愛し、プライベート でも日本全国を飛び回っています。

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