”編集長代理”の徒然ESSAY No.1「トム・エバハートとクロード・モネ」【前編】
みなさんこんにちは、編集長代理です。今年からこちらのサロンでエッセイの連載を始めることになりました。「ESSAY with…」というコーナーなので、早速ですが今回は「ESSAY with ART」。最初なのでトム・エバハートとクロード・モネについて。モネは日本でも人気の高い画家ですね。「睡蓮」が1番有名なのでは?私は個人的に「散歩、日傘を差す女」が好きです。
さて、それでは「トム・エバハートとクロード・モネ」【前編】です。
※これは2023年に上野の森美術館にて開催されたモネ展「連作の情景」をもとに、2023年11月に書かれたエッセイを再編集したものです。現在公開の展覧会ではありません。(https://www.ueno-mori.org/exhibitions/article.cgi?id=1155263)
トム・エバハートは、風景画家としての活動の後、現在は『PEANUTS』のキャラクターを用いて自身のアートを表現している。そんなトムの初期の作品には、印象派の技法が色濃く反映されていた。
私の中で、トムは現在のアート表現に着手したとともに、次第に伝統的な絵画技法からは徐々に離れていったのだという印象を持っていた。しかし、それが今回の「モネ展」を鑑賞したことによって大きく覆されることとなる。
今回のモネ展のテーマは”連作の情景”。連作の代表作といえば『睡蓮』だが、そこに至るまでのモネの軌跡をたどると、トム・エバハートが現在も伝統的な技法や視点を取り入れながら作品を描いていることがわかる。
初めに着目したのが「ジオラマ画」という19世紀初頭に開発された技法だ。箱の中に風景画を置き、そこに立体物を配置して遠近感を持たせることで、その箱を覗いた時、実際の光のあたり具合などを写実的に捉えることができるというもの。
ここでのキーワードは「覗き穴」だ。トム・エバハートの作品に度々「覗き穴」というテーマが登場する。2014年の「PEEP HOLE」に顕著だ。まさにこれはその名の通り「覗き穴」であり、木をパズルのようにカットし、そこに穴を開けた画材を用いて「覗き穴から見える新しい世界」を表現した。トム・エバハート作品の醍醐味は、一つの作品に複数の意味やテーマが込められている点にあるが、これはモネが連作の情景を描くに至る過程で、一つの作品に複数の意味や視点を持たせたことにも繋がっている。モネが生涯を通して得たものを取り入れて、トム・エバハートは作品を描いていたのだ。「覗き穴を通して見える新しい世界」、これはたった一時のものではなく、2021年に描かれた「Beyond your willdest dreams」や「When I dream, I dream of you」のシリーズにも表現されている。この2作品が描かれた当時、コロナ禍によって暮らしは一変していた。世界が殺伐とし、先行きの見えない不安の中で、暗闇を照らす月のようにも見える「覗き穴」を希望の光として描いたのだ。
今回の最も大きなテーマである「連作」。モネが晩年にかけて制作した『睡蓮』を代表とする連作は、トム・エバハートが「シリーズ」として描く一連の原画作品に表されている。彼は作品を描く時、一つのテーマで複数の作品を描く。ただし、これはシリーズによって表現が異なるため、連作という一括りで全てを語ることはできない。
トム・エバハートが過去に描いた連作の中でその究極たるものは、まさに『睡蓮』の名を冠した『Water Lily』シリーズだろう。
モネの『睡蓮』との関連性は何なのか、当時の私たちはどれほど想像力を働かせてもそこに及ぶことができなかったが、今回のモネ展によってその答えが出たように思う。トムの描いた『Water Lily』はスヌーピーというキャラクターの背景全てにタヒチのオテマヌ山が描かれている。これは、他のどれにもない「同じ角度から見た風景」を「多様な表現で描き表す」という連作の最たるものだ。まさしく『睡蓮』そのものである。さらには海の中を泳いでいたり、海に体を半分ほど浸していたりするようなスヌーピーの表現にも『睡蓮』との対比がある。睡蓮とは湖に浮かび花をつける植物で、葉や花は水面より上に、根は深く水中から下へと伸びている。このことから、スヌーピーそのものを睡蓮という植物と対比させているのではないだろうか。
また、連作という表現の中で欠かせないのが、ただ同じ風景を描くということではなく、同じ場所の季節の移ろいも表現していることだ。モネは庭の睡蓮池の様々な季節の移り変わりも連作として表現している。トムの描いた『Water Lily』もまた、その他の連作のシリーズと一線を画している理由としてその一枚一枚に12ヶ月のタイトルがつけられていることにある。12ヶ月のタヒチの風景とそこで描かれたキャラクターに、季節の移ろいやその月に起きた印象的な出来事が表されているのだ。
モネの軌跡を、ジオラマ画→多様な視点→連作とするならば、トム・エバハートはその全ての要素を一度に取り入れていることになる。トムがシュルツ氏に出会う前から、モネを熱心に研究していたことが伺えた。
次回【後編】へ続く。
執筆者プロフィール
